8000形
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 立山の直下にあり、室堂と大観峰の間、3.7qをつなぐ立山トンネルは、立山黒部アルペンルートの一角を形成する重要なトンネルであり、破砕帯突破という難工事を経て、着工から3年7か月という期間を経て1969年に貫通した。この立山トンネルを経由し前述した室堂と大観峰を結ぶ交通手段として、1971年にトンネルバスが営業を開始した。当時のバスは一般的なディーゼルバスであり、走行中の排気ガスがトンネル内に充満する問題が生じた。途中車両入れ替えや換気装置増設などの対応は行ったものの、観光客・登山客輸送は年々増加の一途をたどり、抜本的な改善には至らなかった。そこで次に車両を置き換える際に、単なるバスによる置き換えではなく、電力で走行し排気ガスを出さないトロリーバスの導入が決まり、1996年から「トンネルトロリーバス」として営業を開始した。既にトロリーバスは都市交通からは廃されており、関西電力のトロリーバスしか運行していなかった状況下であり、実に32年ぶりとなる新規導入となった。トロリーバスとなったことで鉄道事業法に基づく鉄道扱いとされたこともあり、終点の一つである室堂駅は、標高2450mと国内の鉄道駅の中で最も高い位置にある駅となった。四半世紀以上に渡りアルペンルートを構成する交通機関として登山客、観光客などの輸送に従事していたが、経年から2024年シーズンを以て車両置き換えを行うことになり、トロリーバスではなく電気バスによって車両更新されることとなった。既に2018年を以て関西電力のトロリーバスが電気バスに置き換えられて廃止されていたため、本路線が国内最後のトロリーバスとなっていたが、こちらも電気バスへの置き換えになり、日本におけるトロリーバスの系譜はここで途絶えることになった。なお、電気バスへの移行後も本質は変わらず、引き続き立山黒部アルペンルートの一翼を担う。

 立山トンネルトロリーバスの車両として導入された車両が8000形であり、8両が大阪車輌工業、三菱自動車工業の合作により1996年に製造された。形式の8は製造された元号(平成8年)に起因する。既に関西電力に導入されていた300形に類似した車体を有し、スケルトンボディの角張った車体形状となっている。扉配置も同一であり、中扉は両開きである。なお、こちらは正面上部の補助灯がなく、外装も白を基調にオレンジ色のラインを配したものとなっている他、下部に方向幕を備えている等、前述のとおり関西電力300形と類似形状ではあるが、印象は異なっている。トンネル上部にあるトロリー線から、車両後方に設けられた2本のトロリーポールを介して集電が行われるが、離線対策として車両後部にレトリーバーと称する巻取り装置が設置され、トロリーポールの制御がなされている。制御方式はGTO-VVVFインバーター制御方式が採用され、東芝製の制御装置が搭載された。なお、通常の鉄道車両と異なり床下には搭載できないため、制御装置は最後部の一般的なバスではエンジンが搭載されている箇所に設置されている。営業における最高時速は40km/hで、スピードリミッターも搭載されている。なお、架線のない箇所であってもバッテリーによる走行が可能である。トロリーバスの操縦は一般的なバスのそれに準じており、本形式ではペダルの踏み込みを電気信号に切り替えて自動進段が行われる機構で、所謂「オートマチック車」となっている。車内は1方向固定のクロスシートで、ロングシートのないバスの車内とほぼ同じ内装といえる。路線が全て立山トンネル内であることから、暖房は備えるが冷房装置は搭載せず、送風機のみが設置されている。なお、立山トンネルトロリーバスでは当初中間停留所が存在していたことから、各所に降車ボタンが設けられており、この点は関電トロリーバスにはない設備であった(雷殿停留所、1998年に廃止)。前述のとおり、半世紀以上に及びアルペンルートを構成する交通手段の一つであり、2019年以降は国内最後のトロリーバスとなっていたが、2024年シーズンを以て電気バスへの置き換えが決まり、同年11月に活躍の終止符を打っている。


 2016,07,08 大観峰


■Variation
 後方より望む。トロリーバス最大の特徴であるダブルポールが後方に伸びている。トロリーバスは一般的な鉄道と異なり軌道や線路に電気を流すことができないため、集電線と帰電線の2本の架線を有しており、それぞれにトロリーポールを接続している。

 2016,07,08 室 堂

2025/04/19