321形
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 かつて和歌山には軌道線が存在し、和歌山市駅と海南駅を結ぶ路線を基幹路線とし、国鉄和歌山駅や新和歌浦等を結ぶ支線を含め、全長16.2kmの路線網を有していた。この軌道線は世界情勢等の影響から運行会社が複数回変わっていることが特徴で、1909年の開業当初は電力事業も兼ねた和歌山水力電気株式会社による運営であったが、京阪電鉄への合併により同社保有となり、その後電力会社の運営となった。1940年からは和歌山電気軌道が引き継いだが、この会社も親会社が南海鉄道、近鉄と合併により変わり、戦後の1947年に独立している。1961年に南海電鉄に合併されて同社の和歌山軌道線となったが、この頃にはモータリゼーションや道路整備が進んだこともあり、バスに置き換えられる形で1971年に全廃となっている。

 321形は南海電鉄に合併した後の1963年に、残存する4輪単車等の置き換えを目的に日立製作所で製造されたボギー車で、和歌山軌道線が南海電鉄合併後に製造された唯一の車両である(南海電鉄時代の車両体質改善自体は、秋田市電からの車両譲渡でも行われている)。和歌山電気軌道が最後に製造したボギー単車である311形とほぼ同型の全鋼製車体を有し、中央上部には大型の行き先表示器を備え、その両側に丸形前照灯が配されている。全長は12.3mで、曲線が多く複線での線路間隔が短い路線特性から、前面が絞られた形状となっている。311形と異なり、こちらは新たに側面にも行き先表示器が設置された他、塗装がアイボリーと緑のツートンカラーとなり、前面が所謂「金太郎塗り」と称される塗り分けとなっている。また、正面両側の窓はHゴム固定となり、蝶番により開閉するよう改められている(なお、311形の前面両側窓は上昇式となっていた)。駆動方式は一般的な直接駆動方式が採用されている。台車は日立製作所製のKL-11Cと称される、コイルバネを片側2列とした台車が搭載された。車内はロングシートで、同時期の南海鉄道線の車両と同様、木目調のアルミデコラを化粧板等に採用していた。321形は7両が製造され、前述のとおり単車等を置き換えたものの、1971年には路線廃止となってしまったため、実働はわずか8年に過ぎない。路線廃止後324号車のみ廃車後伊予鉄道に譲渡され、モハ50形に編入(車番はモハ81と区分けされている)されている。同車は譲渡時の改造で灯具や方向幕の配置も他のモハ50形に合わせられたが、寸法が異なることが災いし冷房化されず1987年に除籍されている。現在、321号車と322号車が和歌山市内(岡公園)と海南市内にそれぞれ保存されており、往時をしのぶことができる。なお、321号車が現在纏っている塗装は、前面の塗分けは往時のまま、かつて和歌山電気軌道の時代に採用されていたカラーリング(アイボリーと水色のツートンカラー)となっている。

 2014,09,14 岡公園


2025/10/14