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土佐電気鉄道では1989年に路線開業85周年を迎えたことを機に、更なる集客を図るため「世界の電車が走る街」というスローガンのもと、海外で使用されていた路面電車車両を譲受し、改造のうえで自社線で営業に供することが計画された。この計画により複数の国から中古の路面電車が譲渡されているが、本形式もそれにより導入されたものである。本車はポルトガルのリスボン市電で走っていたもので、2軸単車の533号車と共に1990年に輸入されている。リスボン市電では900形910号という車号が振られており、1948年にリスボンの車両工場で製造された全長11m級、前後扉配置のボギー車であった。910号車はスーパーマーケットの広告を纏っており、纏ったままの姿で輸入された。533号車が533形として1991年には運用入り(2008年に引退の上愛媛県内で静態保存)したことと対照的に、本車は改造に時間を要し、運用入りは1994年3月と実に4年近くもかかっている。改造に際しては、外板や天井の取り換え、側窓換装、前面形状の変更等他の外国電車以上に大規模な改造がなされており、もはや原型を留めず、日本の路面電車に近い姿となっている。前面はボンネットが張り出され、その形状は岡山電気軌道の7000形等にも似たものとなっている。塗装はリスボン時代のものが再現され、現地のスーパーマーケットの広告塗装をそのまま纏っている。元々リスボン時代は集電装置がポールであったが、日本での使用に際しパンタグラフが追設されているが、ポールもダミーながら設置されており、異なる集電装置を1両に搭載している形になった。電装品はリスボン時代と同様イギリスCCFL社製のものを搭載しているが、台車については軌間が異なることから、西鉄の廃車発生品が流用されている。車内はリスボン市電当時の面影を残しており、転換クロスシートを基調とし、出入口付近がロングシートとなっている。窓枠はニス塗りとなっている他、窓にはプリーツカーテンが設置されている。オープンデッキ構造の車両のように客室と出入口部分は仕切り(木製ニス塗り)があり、両開きの仕切り戸も設置されている。車内照明は白熱灯であり、総じて内装は通常の路面電車とは一線を画すものとなっている。更に他車同様発車合図となる電鈴や、車内案内表示器、運賃箱等運行に必要な機器類が追設されている。前述のとおり本車は1994年に営業運転を開始した。一連の外国電車の導入は本車が区切りとなっており、他にも未改造、改造途中の外国電車(ウィーン市電、プラハ市電、ミラノ市電)も存在したものの、竣工せず処分されてしまっている。本車は大規模な改造により既存車両に比較的近い形状となったことから稼働率は高く、高知駅前〜桟橋通五丁目間を中心に貸切、イベント用としても運用されていたが、2009年のICカード導入時には対応せず定期運用を離脱している。2012年にはICカードにも対応し、同年11月以降土日限定ながら高知駅〜桟橋通五丁目・枡形間の定期運用が復活したが、冷房装置を搭載せずワンマン運転に対応していないこともあり、2016年2月の高知駅〜枡形間直行便の日中休止に際して再度定期運用を離脱した。以降はイベント専用車という位置づけであり、特別運行や貸切用途で時折本線走行する程度となっている。
2025,10,04 桟橋車庫 |