320形
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 土佐電気鉄道では1989年に路線開業85周年を迎えたことを機に、更なる集客を図るため「世界の電車が走る街」というスローガンのもと、海外で使用されていた路面電車車両を譲受し、改造のうえで自社線で営業に供することが計画された。この計画により複数の国から中古の路面電車が譲渡されているが、本車もそれにより導入されたものである。本車はオーストリアのグラーツ市電で使用されていた車両を出自としており、1949年に製造されている。戦後復興期における輸送力の増強及び車両の体質改善に対応すべく投入された半鋼製の4輪単車で、この時期隣国のドイツでもみられた、前頭部に向けて大きく絞られた車体形状と側面両端にある大型の引き戸、極めて大型の3枚窓といった特徴を有している(広島電鉄に在籍する元ハノーファー市電の200形も類似した車体である)。グラーツでは1989年まで使用されており、その後1両が1992年に輸入されている。土佐電気鉄道での使用にあたっては、台車を狭軌使用のものに換装(グラーツ市電は標準軌であった)した他、集電装置も日本仕様のものに換装されている。内装については元が2人掛けクロスシートが展開していたところがロングシートに改められており、側窓には横引のプリーツカーテンが設置された他、床材も張り替えられている。更に天井部にはオーストリア周辺の世界地図とグラーツ市を模したイラストが描かれた。また発車合図となる電鈴や、車内案内表示器、運賃箱等運行に必要な機器類が追設されている。それ以外はグラーツ市電当時の面影を色濃く残しており、天井中央部に設置されたカバー付きの照明や専用のハンドルで開閉する側窓は、他の車両には見られない特色である。なお、窓枠や仕切り部分など木材を使用している箇所については難燃化されている。本車は他の外国電車に比べて改造箇所が少なかったこともあり、輸入翌年の1993年1月から営業運転を開始した。因みにグラーツ市電時代は200形204号という車番が振られていたが、土佐電気鉄道とグラーツ市が姉妹提携を結んだ日(1992年3月20日)に因み、土佐電気鉄道での形式及び車番は320形320号となった。高知駅前〜桟橋通五丁目間を中心に貸切、イベント用としても運用されていたが、2009年のICカード導入時には対応せず定期運用を離脱している。2012年にはICカードにも対応し、同年11月以降土日限定ながら高知駅〜桟橋通五丁目・枡形間の定期運用が復活したが、冷房装置を搭載せずワンマン運転に対応していないこともあり、2016年2月の高知駅〜枡形間直行便の日中休止に際して再度定期運用を離脱した。以降はイベント専用車という位置づけであり、特別運行や貸切用途で時折本線走行する程度となっている。

 2025,10,04 桟橋車庫


2025/10/05