タム5000形
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 タム5000形は初の塩酸輸送用貨車として1938年から製造が開始された15t積の2軸タンク車である。輸送対象となる塩酸は強酸性であり一般的な金属を腐食させることから、タンク体は通常の鋼製ながら、その内部をゴムで内張りしたゴムライニング仕上げとしている点が特徴で、国内の貨車としては初の事例となっている。内部の点検・ゴムのメンテナンス用に鏡面に点検用のハッチが備えられているが、車両によっては片側の鏡面のみに備えられている。車体中央のドーム上部にあるマンホールから輸送物を積載し、空気圧により同じくタンク上部から荷卸しする仕様であった。戦前に製造された車両は10両のみで、その後は戦後の1950年以降に製造されている。最終的には1968年までに368両となった。戦後製の車両の中には積載物を塩酸ではなく調味料で用いるアミノ酸に指定した車両や、塩酸とアミノ酸の双方を積載指定した車両も現れた。特に塩浜操車場(後に川崎貨物駅)を常備駅とし味の素が保有した本形式は「味タム」と称されることがあり、3線軌条となっていた京急大師線に乗り入れ鈴木町駅に隣接する味の素の工場まで向かう姿が見られた。なお、新造車が大半を占めるが、一部はタム100形等の他形式から専用種別を変更することで本形式に編入している。新造車でも長期間増備が続いたことから車両によりタンク体やそれを支える受台、手すり等に細部に差異が多々あり、自重や軸距も車両によって異なっている。また後期に製造された車両は安全性の向上が図られ、車両の両側面にブレーキ装置を搭載する。他の2軸車の例に漏れず当初の最高時速は65km/hであったが、1968年10月のダイヤ改正に向け走り装置の2段リンク化が行われ、最高時速が75km/hに引き上げられている。ただし北海道向けの4両のみこの改造が施されず、形式をタキ25000形と改番することで識別した。また初期に製造された車両の一部は二段リンク化が不適合とされており、1968年の時点で廃車されている。国鉄分割民営化に際しては総数の4割程の車両がJR貨物に引き継がれ、引き続き塩酸・アミノ酸輸送に従事した。最大両数を誇った味の素所有車は1997年に専用線が廃止されたことでその姿を消している。東北東ソー化学株式会社が私有していた車両が21世紀に入っても用いられ、酒田港駅を常備駅として新潟県の二本木や富山県の能町までの貨物輸送に従事した。現役で使用される最後の「タム」という形式であったが、老朽化も進んだうえ、塩酸を輸送する貨物自体が減少したこともあり、2005年に廃車されて形式消滅した。最後まで使用された車両のうちタム6263号車が丹生川駅構内の貨物鉄道博物館に移設され、同地にて静態保存されている。

 2019,07,16 丹生川


2024/12/25