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タキ29300形は1976年以降に製造された濃硫酸専用のタンク車である。既に同種別に係るタンク車として40t積のタキ5750形が増備されていたが、タキ5750形は軽量化したタンク体に加え側梁を省略する所謂フレームレス構造とすることで40t積みを実現していた。しかし1970年代に入りタンク車に起因する事故が国内外で頻発したことを受け、万一漏洩した際の影響が大きいタンク車については安全性の確保が重要事項となり、フレームレス構造のタンク車は製造禁止となってしまった。これを受けてタキ5750形が製造できなくなったことで、側梁を設けた本形式が製造されている。この構造ゆえに自重が増加したことから従来の40t積みは維持できず、やむを得ず積載量は1t減の39tとなっている。後述の21世紀に製造された車両を除きタンク体は耐候性高張力鋼で黒色に塗装されている。荷役は車両上部から行うが、本形式はドームがついている車両とついていない車両の双方が存在していた。濃硫酸は鉱物製錬時の副産物であることから主に鉱業を営む会社が私有し、小坂や神岡鉱山前、足尾等が常備駅となっていた。本形式は1980年までに22両が製造された時点で製造がいったん止まり、以降は経費削減の観点からしばらくは機器流用によるタンク車の製造が続いた。この時点で配備されていた車両は全車ともJR貨物に継承されるが、その後1990年からは再び本形式が増備されることとなり、この際に増備された車両は日本陸運産業の私有車となった。更には21世紀を迎えた2002年以降にも同和鉱業の私有として再度増備されている。21世紀においてガソリン以外のタンク車の製造は非常に稀なことだが、当時濃硫酸輸送を継続していた同和鉱業において貨車が不足気味となっていたことによる措置である。この際に製造された車両のみタンク体が耐硫酸性鋼製かつ銀色となっている。結果的に2004年まで製造され、総数は62両となったが、既に初期の車両の廃車が進んでおり同時に全て揃ったことはない。同和鉱業の私有車は小坂鉄道の小坂駅を常備駅として濃硫酸輸送に従事したが、小坂鉄道自体が2008年3月を以て休止(後に廃止)されることになったため、その時点で本系列もお役御免となり、最も新しい車両は車歴わずか4年で運用を終了することとなった。その他も神岡鉄道の貨物輸送廃止等で濃硫酸輸送自体が打ち止めとなったことで姿を消している。最後まで残存していた車両のうち、タキ29312号車はかつて足尾線での貨物輸送に従事していた縁から足尾駅構内に移設されることとなり、同地で保存されている。
2013,11,23 足 尾 |