300形
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 関西電力が運行していた黒部トロリーバスは、立山黒部アルペンルートにおける長野側の玄関口扇沢と黒部ダムの間を関電トンネルを抜けて結んでいた、全長6.1kmの路線である。トロリーバスが走行していた関電トンネルは元々黒部川第四水力発電所の建設に際し長野側からの資材運搬路として1958年に完成したトンネルだが、国立公園内の敷設であり、建設後は公共用途への活用が決められていたこともあり、ダム完成後の同トンネルを経由する交通機関として、環境に配慮した公共交通機関として当時斜陽化していたトロリーバスが1964年に導入された。長野・富山県境を跨ぐ唯一の交通機関であり、長野県側から黒部ダムへのアクセスルートである他、1971年以降は立山黒部アルペンルートの一翼として多くの登山家や観光客に利用されてきた。実質2世代、55年弱という長期間に渡り運行され、日本では最も歴史あるトロリーバス路線となったが、後述の300形の後継となる車両は電気バスとなったため、トロリーバス路線としては2018年度のシーズンを以て終了することになった。なお、電気バスへの移行後も本質は変わらず、引き続き立山黒部アルペンルートの一翼を担う。

 300形は先代車両の老朽化に伴い1993年以降導入されたもので、実質的な2代目の車両である。トロリーバスの車両としては実に24年ぶりとなる新造車両で、その間に一般的なバスの製造工法も変わってきていたことから本形式もそれまでのトロリーバス車両に比べて大幅なモデルチェンジが施されている。車体は当時製造されていたバスと同様、モノコック構造ではなく骨組みだけで応力を受け持つスケルトンボディとなり、従来のモノコック製車両に比べて角ばった車体形状となった。前頭上部には単行及び続行運転の区別で用いる標識灯を備えるが、先代車両とは異なり行き先表示器の類は備えていない。扉配置は一般的なバスと同じ前中扉配置で、前扉は折り戸、中扉は外吊り式の両開き扉となっている。これらの特徴は、後に導入される立山黒部貫光の8000形にも引き継がれた。制御方式はGTO-VVVFインバーター制御方式が採用され、東芝製の制御装置が搭載された。なお、通常の鉄道車両と異なり床下には搭載できないため、制御装置は最後部の一般的なバスではエンジンが搭載されている箇所に設置されている。営業における最高時速は50km/hで、スピードリミッターも搭載されている。トロリーバスの操縦は一般的なバスのそれに準じており、本形式ではペダルの踏み込みを電気信号に切り替えて自動進段が行われる機構で、所謂「オートマチック車」となっている。また、操縦の円滑化を図るため、パワーステアリングが装備されている。車内は1方向固定のクロスシートで、ロングシートのないバスの車内とほぼ同じ内装といえる。路線の大半が関電トンネル内であることに鑑み、暖房は備えるが冷房装置は搭載していない。300形は毎年数両の増備が続けられ、1996年までに計15両となった。この時点で先代の100形・200形は全て引退し、メキシコに譲渡されている。初期に製造された車両の製造から25年近く経過したこともあり車両置き換えが計画されたが、後継となる車両はトロリーバスではなく、充電式の電気バスとなった。このため鉄道路線としては廃止されることになり、2018年のシーズンを以て300形は営業運転を終了、トロリーバスも廃止となった。もっとも電気バスもトロリーバスと同ルートを走行するため、架線が撤去され車両が新しくなったこと以外は傍目にみて大きな変化はない。300形はトロリーバス廃止後301号車を除いて順次伏木のリサイクル工場に搬送され、順次解体された。301号車も解体を前提として搬送されたものの、クラウドファンディングにより大町市内で保存されることとなり、再度扇沢に戻された。


 2016,07,08 黒部ダム


■Variation
 扇沢に到着した302号車。単独運転時と続行運転の先頭車と最後尾の車両では、上部の標識灯はオレンジ色2灯が点灯した。

 2016,07,08 扇 沢
 後方より望む。トロリーバス最大の特徴であるダブルポールが後方に伸びている。トロリーバスは一般的な鉄道と異なり軌道や線路に電気を流すことができないため、集電線と帰電線の2本の架線を有しており、それぞれにトロリーポールを接続している。

 2016,07,08 黒部ダム

2021/01/20