牛若號V
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 鞍馬寺境内にある麓側の山門駅と上部に位置する多宝塔駅を結ぶ鞍馬山鋼索鉄道は、鞍馬寺境内に位置することから分かるとおり鞍馬寺が運営しており、鉄道事業法に基づく鉄道としては唯一、宗教法人が運営する鉄道路線である。山門駅と多宝塔駅の間は僅か200m程で路線全長も日本一短いが、並行する参道は枕草子に取り上げられるほど、1000年以上前よりつづら折りの難所で、特に上りでは徒歩30分程の時間を要するため、参詣客の利便を図るために敷設されたものである。本来つづら折りで上る区間を最短経路で結んでいるため200mという全長に比して高低差は89mもあり、一貫して50%近くの急勾配となっている。前述のとおり参詣客の利便のために敷設された路線で営利を目的としたものではないため、運賃そのものは課されないが、乗車には寺院の維持管理を名目とした「寄進」が必要である。この鞍馬山鋼索鉄道は、現在運行されているケーブルカーの中では珍しく、1台の車両のみ上下する形態で、対向する車両の代わりに軌道下のローラー付き錘が交走する仕組みになっている。1957年の開業以来、概ね20年前後で車両交代が行われており、現在使用されている車両は四代目となっている。いずれの車両も、源義経が鞍馬寺で稚児となっていたことに因み「牛若號」という愛称がつけられている。。

 1996年に製造された三代目車両は「牛若號V」と名付けられ、大阪車輌工業及び安全策道で製造された。それまでの車両では架線集電かつ軌間762oの鉄輪式であったが、この車両では軌間800mmのゴムタイヤ式となり、集電も第三軌条による集電に変更された。鉄道事業法に基づくケーブルカーでは初のゴムタイヤ式であると共に、現在に至るまで唯一の存在である。全幅は凡そ1.5m、全長は凡そ8.5mと非常に小柄な車体であり、乗車定員は32名となっている。先代の車両に比べて角ばった車体となったが、塗装は濃淡グリーンと先代車両のそれを引き継いでいる。また、側扉は折り戸が採用されていた。車内は車端部にロングシートがある他はクロスシートとなっている。クロスシートは全て麓側を向いており、背ずりが座面に比して非常に長い。なお、晩年を除き座席にはビニールカバーが取り付けられていた。車内照明はカバー付きで天井の中央に配置されていた。3代目車両は凡そ19年間鞍馬寺参詣の足として用いられてきたが、設備更新に伴い2015年5月に現役を引退した。その後第三軌条や沿線の灯篭の撤去、施設改修を含めた設備更新がなされ、翌2016年4月より4代目の「牛若號W」が投入されている。

 2008,10,04 多宝塔


2021/01/01